タバコを吸っていた男

被災地の現場（石巻）の避難所で二日間泊まった時のことです。
ボランティア活動に行って、被災者の方々と一緒に過ごしました。避難所は小学校の体育館だったのですが、夜中はかなり寒かったのです。持っていたスリーピングバックで寝ましたが、初日は寒くて夜中の2時ごろ起きてしまいました。毎日をどうなるか分らず避難所の生活をしている方々を考えるととても心が痛みました。2時ごろ外に設置されている臨時トイレに行きました。その時、被災者の一人が外でタバコを吸っていました。それを見て思いました。「あの人はタバコが結構好きなようだな。夜中に外で出てタバコを吸っているなんて。」3時ごろになりました。ずっと眠れなかったので再び外に出ました。ところで、先の男の人がまたタバコを吸っていました。いきなりその人に対してのイメージが悪くなりました。一度はいいけれど、2回目は許せなかったような。「あの人はもうタバコ中毒ではないか。避難所に来てもあんなにタバコをたくさん吸うなんて。あの人は地震の被害よりタバコの被害がもっと大変なのではないか…」あまり良くない人のように見えました。
しかし、後で一緒に行ったスイス人宣教師と話しをしている時に、自分の誤った判断を悔い改めました。私はただタバコを吸っている姿だけでその人を勝手に判断してしまいましたが、スイス宣教師はその人と話をしたようです。彼の事情は本当に気の毒でした。津波で家族を4人も失い、その上家も全部流されたそうです。一人で生き残り、この避難所に来ているということでした。このような状況なら、誰でも眠れないでしょう。食事もできなくて、ものすごく辛くて、生きていること自体が苦しみかもしれません。だから、その男性は苦しい心を少しでも癒したくて、うまく吸えないタバコを、人が皆眠っているその夜にもずっと吸っていたかもしれません。
外観だけを見て他人を判断した自分の姿がとても恥ずかしかったです。自分が牧師なのに。とても愚かなことです。誤解は、徹底的に自分の観点で他人を判断することです。少しでも相手の立場を理解できない姿です。その人と話をしてみると、その人がそうするしかできなかった理由が必ずあります。その人の行動だけで判断することは非常に危険なことです。その行動を取るしかなかった動機と原因を探らなければなりません。そうすると、判断の刃は絶対鞘から出ることが出来ません。
罪に定めるべきの人と会っても、まずこう考えてみてほしいです。「その人には、その人なりのわけがあるはずだ。きっとそう行動するしかない、そう言うしかない事情があるはずだ。」
人を見る時には、まず自分の色眼鏡を取るべきです。持病の色眼鏡をかけている人は、すべての人をそう見るしか出来ません。
聖書にこのような御言葉があります。
「 口数を制する人は知識をわきまえた人。冷静（calm）な人には英知がある。」(箴言17:27)
ここで、「英知」という言葉は、「理解心（understanding）」を言います。英知の人は、理解（思いやり）がある人です。理解がある人は当然口数を制するし、人柄が慎重で穏やかです。まず相手を理解しようとするからです。相手の立場になるためには時間が必要です。自分モードから相手モードに考えを変えなければならないからです。
「もう互いに裁き合わないようにしよう。」（ローマ14:13)